2022年にオープンした横浜・阪東橋にある新刊書店「本屋 象の旅」では、オープン当初からikikukkaの本棚が使われています。ふわりと木の香りが漂う空間で、ikikukka store代表の湯谷とともに、象の旅のオーナーの加茂和弘さんにお話を伺いました。高さや奥行きなどこだわった部分や、耐久性や出し入れのしやすさなど、本屋はもちろん、本好きの方が本棚選びで重視したい点についてもたくさんのヒントをいただきました。
耐久性と使い勝手を信頼し、ほぼ一択でikikukkaの本棚に決定
―象の旅さんは2022年11月にオープンされたそうですね。どのように空間に合う本棚を探されたんですか?
加茂:自宅用に「本棚屋」さんのパイン材の本棚を使っていて、それが使い勝手も含めてものすごく良かったんです。本棚屋さんとikikukkaは同じ工場でつくられているんですよね。
湯谷:そうなんです。
加茂:それと、同じ神奈川県の大船に「ポルべニールブックストア」という本屋さんがあって、ikikukkaの本棚を使っているんですが、見に行ったときにすごくいいなという印象を持ちまして。自分が本屋をやるとなったときにお願いしたいと思っていたので、ほぼ一択でikikukkaに決めました。
―一択だったんですね!
加茂::はい(笑)。本好きの人が本棚でなにを重視するかって、耐久性と使い勝手だと思うんです。本棚ってピンキリで、安い素材はいろいろあるので、高級に見えても上から素材を貼っているだけのものもよくあるんですよ。そういう本棚は、棚板が長いと本の重さに負けて、たわんだり崩れたりしてくる。30cm程度の幅だったらなんとかなるんですけど、本屋で使う1mぐらいの幅の棚となると、安いものはもう勝負にならなくて。本棚屋さんのパイン材は信頼していたので、ikikukka storeさんに安心してご依頼できました。
―もともとはお魚屋さんだった場所をリノベーションしてつくられたと伺いました。大きな窓があって、中の様子が奥まで見えるような内装が印象的です。どのように本棚を置いていくかは、加茂さんのなかにプランがあったんでしょうか。
加茂:本はたくさん置きたいけれど、本棚で外から中の様子が見えないと入りにくいかなと思って、窓を大きくして、外からお店全体が見える感じにしたいというのは最初から重視していました。
―本棚を注文していくときは、どんなやり取りをしながら決めていかれたんですか?
加茂:最初はざっくりとしたご相談でした。間取り図を送って、こういう感じで置きたいんだけどどうでしょう、とお話して、何度かやり取りさせていただきましたね。
湯谷:ikikukkaでは棚板の幅を80cm、100cm、120cmと20cmピッチで選んでいただけるので、可能な限り見栄えよく均等に配置しながら、収納もたっぷりできるように計画しました。
加茂:もともとデッドスペースも入れて10坪ぐらいのお店で、広くはないけれど本の量は置きたいという欲望もあったので、そうした気持ちも汲んでくださいました。
―壁沿いの棚と、窓横の棚がikikukkaのものだそうですね。窓横の棚も高さが絶妙です。
加茂:外から奥が見えるように少し低い棚にしたいけれど、2段ぐらいは置きたいなという気持ちもあって、そのせめぎ合いのなかで選びました。中央に置いている移動式本棚は、ikikukkaのパイン材の質感に合わせて、内装工事屋さんにオーダーして作成しました。イベント用に移動できる棚がほしくって。ikikukkaさんの本棚で空間のイメージがつくられていたので、それに合わせてつくってもらいました。
加茂:いろんな本棚を組み合わせたり、箱をうまく使って立体的に置いたりするなど、いろんな本屋さんがあると思います。自分の場合は、初めにきっちり設計していただくと、何冊ぐらい入れられるかが最初にわかって、計画しやすくてありがたかったです。きっちりしているほうが好きなんだなっていうのは、やってみて思いました。空間設計って難しいじゃないですか。だからこそ、素晴らしい製品を最大限生かしたつくりにしています。
お店にとってもお客さまにとってもうれしい、本の出し入れのしやすさ
―象の旅さんの本棚は、あえてジャンル別に置かないことで、探求したくなるような本の置き方をされているように感じます。本棚に本を並べるときに意識されていることはありますか?
加茂:小さなお店って、入るのに結構勇気がいりますよね。絵本や料理の本など、親しみを持てそうな本をできるだけ窓側に置くようにして、ゆっくり本を見たい方は奥で落ち着いて見られるようにしています。文学は手に取ってもらう機会が少ないので、少しでも接する機会が増えるように、他のジャンルのものと混ぜながら置いていますね。
―棚板仕切りの高さはどのように決められましたか?
加茂:棚板仕切りの高さは、どんな本でも入る高さで揃えました。置きたい本の高さや、お客さんの目線を考えながら最初にご相談して計画していただいたんですが、本を仕入れて初めて高さがわかる部分もあるので、計画通りに棚に入れられないこともあって。なので、初めの設計からちょっとアレンジして、最上部と最下部を少し広く高さをとるようにして、高さのある本を置けるようにしました。ikikukkaの本棚はそうした変更も容易にできる設計になってるので、助かりました。
湯谷:私も自宅にikikukkaの本棚があるんですが、前は綺麗に収納したいと思って絵本は絵本で、単行本は単行本で分けて、それに合わせて棚の高さも変えて収納してたんです。あるとき、なんかちょっと違うなと思って、棚板仕切りの高さを全部揃えたんです。そこにランダムに置いても、それはそれで、本の大きさや背表紙の色で本の特徴がわかりますよね。間が空いたりするのもかわいらしいなと思って。本を自由に座らせてるような感じがします。
―棚の高さに合わせて本を並べるのではなく、あえて棚の高さを揃えることで、さまざまな形状の本の魅力が際立つのかもしれないですね。
加茂:そうですね。一番上はまだ余地があるので、飾り棚としても活用しています。オープン当初よりは増えてますし、お金さえあればいくらでも本を仕入れられるんですけど、煩雑になっちゃうのもちょっと嫌だなと思って、これぐらいに留めています。
―本棚の奥行きもいい塩梅です。
加茂:店の構造上、奥が狭いつくりになっているので、奥にある本棚の奥行きは20cmにしました。本棚の奥行きは30cmぐらいが基本なのですが、結局、奥のほうは使わないことがよくあって。奥行きが20cmを超える本って、図鑑とか一部を除いてそんなに多くないので、いわゆる単行本であれば20cmに収まるんです。
―実際に本棚を使い始めてみてからの話もお伺いしたいです。ご自身やお客さまが使いやすさを感じているのはどんな部分でしょうか?
加茂:ikikukkaの本棚は、とにかく本を出し入れしやすいところが魅力です。本屋の本はいろんな人が触るので傷みやすいんですよ。それが一番お客さまに対して心苦しくもあり、経営的にも痛手になる部分でもあって。なので、棚板の滑りがよくて、摩擦も含めて本が傷つきづらくなってるのはありがたい部分です。
湯谷:そうなんですね。わたしたちは素材そのものをできるだけそのままで、という考え方なので、ツルツルに表面の仕上げをしているわけではなくって。木そのものと本の相性のよさがあるのかなと思います。
加茂:絶妙なんですよね。本棚に長いあいだ本を置いているので、ずっと綺麗にしてるのって結構難しくて。出し入れしやすいと、本を傷ませずに埃を払うことができますよね。普段は掃除してるだけですが、これから本棚の特別なケアは必要になってきますか?
湯谷:ほとんどされてる方はいないと思います。テーブルは毎日拭いたりとか、摩耗が激しい場合はオイルを塗ってもらうこともあるんですけど、本棚に関してはほとんどケアの必要はないですね。埃があれば取り除くぐらいで十分だと思います。
加茂:そこはありがたいですよね。掃除もしやすい。
「安心して収納できる」って、生活するうえですごく大切なこと
―ikikukkaの家具にはいろんなパーツがあり、拡張することもできます。この先、拡張とかに関して考えられていることはありますか?
加茂:先々のことも考えてつくっていただいたので、今のところ希望通りで満足しています。途中で足していただいたのは、本棚のサイドを支えるものくらいでしょうか。
湯谷:そうですね。「エンドサポート」を足していただきましたね。
―エンドサポートとは何でしょうか?
湯谷:ブックエンドのようなものです。本棚のサイドが開いていると本が落ちてしまうので、これを差しておくと防げます。横を完全に閉じるパネルもあるんですけど、閉じると圧迫感が出るからオープンにしておきたいお客さまが結構いらっしゃって。これがあるかないかではだいぶ変わるんです。
加茂:本屋だとずっと本を置いておくので、エンドサポートがないと端っこの本がだんだん反ってしまうんですよね。
―ほかにも、やり取りのなかで調整した部分はありますか?
加茂:本棚が倒れないようにするために「クロスブレース」という筋交いを1個飛ばしでいれているのですが、窓際の棚はクロスがたくさん入ってると目立ってしまうので、真ん中だけにするという工夫をしていただきました。
湯谷:ikikukkaを使ううえで、安定性のためにクロスブレースは絶対入れないといけないのですが、窓際の棚はショーウィンドウ的にしたいというので、低い棚ということもあって調整したんですよね。
加茂:柔軟に相談して、対応していただきました。
―加茂さんはご自宅でもパイン材の本棚を使われているとのことですが、パイン材の魅力とはどういった部分にあると思いますか?
加茂:見た目と、質感と、信頼感でしょうか。同じパイン材でも、産地などによって違うそうですね。ikikukkaのものは、たわまないし、しっかりしている。
湯谷:うれしいです。「安心して収納できる」って、生活するうえですごく大切だと思います。「これを入れたら駄目かも」って思いながら収納するのはストレスになりますし、「いくら入れても全然気にしなくて大丈夫」という家具があることって、日々の過ごしやすさに直結しますよね。
加茂:そうですね。それと、他のブランドだと色を選んだりすると思うのですが、ikikukkaはこのナチュラルな色合い一色で、それが明るくて結果としてよかったなと思います。
―落ち着いた色の床との相性もいいですね。
加茂:内装工事屋さんにウッドのイメージでいきたいという相談をして、重いものを置くうえでの耐久性を考え、床は木ではない素材でつくってもらいました。
湯谷:床が落ち着いた色合いなので、本棚が明るく引き立ってよかったです。
―お店に入ってきた瞬間にふわっと木の香りを感じました。ikikukkaの本棚の香りについてはいかがですか?
加茂:お店に入ってきたお客さんに「香りがいいですね」とよく言われます。わたしはずっとお店にいるので慣れてしまったのですが(笑)。お店をやるうえで、香りもなにか考えたほうがいいのかなと思っていたのですが、この木の香りが既にあったのであえて付け足す必要はないかなと思って、本棚の香りをそのまま生かしています。
入れるものは変わっても、私はここにいるよ、と変わらずに寄り添ってくれる本棚
―人生が少しずつ変わっていくように、ikikukkaの木も時間をかけて変わっていき、その変化を楽しんでもらいたいと思っています。象の旅さんは、流行りの本というよりかは、ずっと手元に置いておきたい、変化していく自分に寄り添ってくれそうな本を選んでいるように感じます。どういうきっかけで本屋を始められたのでしょうか?
加茂:外回りの営業の仕事をしていて、移動時間や待ち時間があるとよく本屋に立ち寄っていたんです。もともと本屋を見ているのが好きだったのですが、その時間がいつの間にか一番好きな時間になっていました。本が読まれなくなってきていますが、もっと読んでもらいたいというのがまずあります。今はすぐに検索できる時代で、昔よりも便利になりましたよね。時間をかけて本を読めば社会がもう少しよくなるのでは、という気持ちもありますし、スマホだけではなく本を読む時間もいいよ、とまずは伝えたいですね。
―『象の旅』はポルトガルのノーベル賞作家、ジョゼ・サラマーゴの長編小説だそうですが、この本の名前を店名にした理由はありますか?
加茂:コロナ禍もあって、世の中の閉塞感や停滞感、なんとも言えないモヤモヤする感じがあり、その状況のなかで本屋という業態でお店を立ち上げるときに、『象の旅』が自分の気持ちとしっくり合う感覚があったんです。ITなどとは異なり、昔からある業態のお店を出すうえで、「世の中のスピードはもっとゆっくり進んでいいんじゃないか」という思いもありました。読んだときにいいなと印象に残っていた本ではありましたが、大好きな本だからつけたというよりは、この時代に店を出すという気持ちと作品が持つ雰囲気がマッチしたというか。それに、もともと象が好きだったのもあります。
―お店にも象グッズがたくさんありますね。
加茂:お客さまも象グッズを持ってきてくれるので、飾っています。象と戯れたりするのも好きで。象はゆっくり動くように思えて、実は走ると早いんですよ(笑)。
―意外です! すぐにスマホで情報が手に入る時代ですが、自分に大切なものを自分のスピードで探していける本の存在と、自分の速度を大切にしている象の存在はすごく合っているように感じました。ikikukkaが大切にしていることと重なる部分はありましたか?
湯谷:ikikukkaの本棚について、「主張しないから、本自体が生きてくる家具ですね」っておっしゃってくれるお客さまも多くて。家具にいれるものは変わっていくけど、私はここにいるよ、と変わらずに寄り添っている立ち位置だと思うんです。これからも、象の旅さんの今の状態を保ちながら少しずつ変化していくスピードに対して、「いいよ」って言ってあげられる存在だといいなと思いました。
加茂:そういう存在だなと思います。お客さんからもどこのどの本棚ですか、ってよく聞かれますよ。
湯谷:うれしいです! よかったです。ikikukkaは長く使ってもらってこそ魅力が発揮される家具です。収納するものに寄り添ってあげられる家具として、縁の下の力持ちのような家具として感じで、ずっと一緒にいてくれるといいなと思います。
<この記事でご紹介したikikukkaの商品>
・エンドサポート
・クロスブレース
<大型本棚の参考事例>
・基本のオープンシェルフ L字本棚
・基本のオープンシェルフ 壁面本棚(大)
・基本のオープンシェルフ 階段下本棚
text:竹中 万季 (me and you)
photo:伊藤 右裕, 樹音 (homevideo company)