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フィンランド生まれ・日本育ちのサステナブルなシステム家具、ikikukka。変わっていく木という素材と真摯に向き合いながら、変化していく生活に寄り添う家具を提案しています。フィンランド留学を経て学んだ家族や家を大事にすることや、「いいものを長く使う」という価値観について、またikikukkaを通じて伝えたい「生きてる」と感じられる豊かな生活についてなど、ikikukka store代表の湯谷麻衣の言葉でお届けします。

 

 

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フィンランドで学んだ、家の中で豊かに暮らすことの大切さ

私は小さな頃から北欧の家具に囲まれて育ってきました。木が好きな父の影響でものづくりに興味が湧き、おもしろそうだと思って入った建築学科。父がフィンランドの家具「Lundia」の日本での販売に携わっていたこともあり、北欧に馴染みがあったので、留学先としてフィンランドを選びました。

 

フィンランドは、林業や木を使った加工製品が産業として成立している国。有力企業として、林業や製材にまつわる企業が名を連ねています。大学時代は「ウッドプログラム」というクラスで、木や製材について知り、接合部や塗装についても学びました。木と戯れ続ける日々を過ごした後、もっと木について学びたいと思い、大学院では木質材料工学という分野へ。木の細胞に関する講義や、強度実験、木を加工したプロダクトについてなど幅広く学びました。

 

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ホストファミリーと暮らす日々を通じて、フィンランド人の生活にどっぷり浸かり、彼らの価値観を知ることもできました。フィンランド人は家族をとても大事にします。仕事は早く終わらせ、家に帰って家族と過ごす。家族揃って美味しいご飯を食べられたら、それが一番幸せ。そうした価値観から得るものがたくさんありました。

 

フィンランドでは、夏休みは一ヶ月とります。夏休みの間はずっと、湖のほとりにある電気も水道も通っていないコテージで、サウナに入ったり、釣りしたり、森に行って樹の実をとったりする。夜はソーセージを焼いて、じゃがいもを茹でる。それをずっと続けます。

 

何をするわけでもなく、ぼーっとしながら家族と時間を共有することを本当に愛している。日本にいると、誰を呼ぶか、何をするか、食べるものを何にするかなど考えることがたくさんあったけれど、ここにはあるのは、湖とサウナと家族とソーセージだけ。フィンランドは夏が短く、暗い冬が長く続くので、一番美しい季節を精一杯楽しむためにそうした時間を過ごしているのかもしれません。こんな贅沢があるんだなと思いました。

 

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フィンランドの人口は約500万人で、日本の30分の1くらい。日本は便利なものがたくさんあるけれど、フィンランドは人口が少ないこともあってものが少なく、選択肢が日本ほどありません。選択肢は少ないけれど、家が大好きだから、家の中を豊かにしたい。だからこそ、いいものを選び、ずっと使い続けている印象があります。

 

家族と家を大事にする。これほどの幸せはほかにないのだと感じました。

 

 

いいものを長く使ってもらうために

2004年、父はLundiaの思想を引き継いだ日本製の家具のブランドとしてikikukkaを立ち上げました。私は2013年からikikukka storeの代表を務めています。ikikukkaの「iki」は「永遠」、「kukka」は「花」で、「永遠に咲き続ける花」という意味。人生のあいだずっと使い続けてほしいという、作り手と売り手の思いが込められています。

 

フィンランド留学を経て、組み替えながら長く使えるLundiaがフィンランドで愛されてきたことをより意識するようになりました。もちろん、フィンランドの生活を日本にそのまま持ってくるということではないと思います。家の中を豊かにしたい、だからこそ「いいものを長く使おう」というメッセージを、ikikukkaを通じて、今の日本に合ったかたちで伝えられたらと思っています。

 

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いいものを長く使ってもらうことを考えると、どんな木で家具をつくるかも重要です。これまでは、品質の高さとコストパフォーマンスの良さを兼ね揃え、「1本切ると1本植える」という環境に配慮した整備が整えられているフィンランドのパイン材でikikukkaをつくり続けてきました。

 

長く使えるシステム家具だからこそ、なくしてはならないもの。この先も長く続けていくためにはどうしたらいいだろう、フィンランドの木を輸入し続ける形でいいのだろうか、とずっと考え続けてきました。

 

現在わたしは、三重県の伊勢で暮らしています。同じく三重県の熊野で製材所を営んでいるnojimokuの野地さんとの出会いもあり、日本ならではの素材であるヒノキを使ったikikukkaをつくり、商品開発や品質管理をより継続しやすくするチャレンジを進めることになりました。これからは、長く愛され続けてきたパインのikikukkaと共に、ヒノキのikikukkaを実現するプロジェクトを進めていきます。

 

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わたしは、うそをつくのが上手ではありません。くるんで隠してしまえば、中がどうなっているかはわからない。けど、それは嫌だと思ってしまいます。表面だけ貼って中を隠すのではなく、中身も納得がいくものをつくりたい。それが結果として、表面にも現れるものだと思います。

 

だから、家具を使ってくれる人のことを考えると、木を使うんだったらやっぱり無垢を使いたい。ikikukkaでは、カットした木を貼り合わせている部分もありますが、アレルギー体質の方も安心して使っていただけるよう、シックハウス症候群のことを考えて使っている接着剤も最小限にしています。システム家具として機能的でありながら、身体への優しさにも配慮しています。

 

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正直なものづくりを考えていると、デザインがすっきりせずに、ぼてっとなることもある。だけど、素材の特性や力の流れを踏まえて、表現した結果を大事にしたい。流行やかっこよさに流されず、自分の気持ちに素直になってものづくりをしていきたいです。

 

 

変わっていくことを楽しむ、豊かな生活を

床についた傷や、汚れたシミの跡は、何をしたかの記録でもあるので、見るだけで「なんでこの跡がついたんだっけ?」と記憶が思い出されます。いいものを買ったとき、使わずにとっておきたいと思うこともありますよね。でも、いいものは使ってこそよさが出てきます。いっぱい使ったあとにどうなるかを見てみたい。使い続けてから、またあらためて好きだと思えることにうれしく感じます。

 

木のいいところは、変わっていくところです。色も変わるし、触れば傷つくし、落とせばへこむ。触って撫でていたらツヤが出てくる。それは、自分たちが生活した足跡になります。子供が成長していくのと同じように、木でできた家具は生きてきた証と共に変化していきます。

 

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「変わってはいけない」「自分はこんなはずではなかった」と思う時期もありますよね。わたしも、留学から日本に帰ってきた後、そんなふうに感じていました。その後、子供を産んで、自分の時間を確保するのが大変になったり、体調が変わったりしたときも、変化に対してモヤモヤした気持ちを抱えていました。

 

でも、最近は「変わっていいんだな」と思えるようになりました。生活も体調も変わるし、好きなものも嫌いなものも変わります。今は、変化を受け入れて認めてあげることが大事だと思っています。その変化に対して工夫をしてみたり、生活はトライアンドエラーの繰り返し。ikikukkaは変化していく木でできているからこそ、そんな変わっていく自分に寄り添う家具であってほしいと思います。

 

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今の社会は便利なものに囲まれています。便利なものがありすぎると、人間も生き物であることを忘れてしまいそうになるけれど、動物的な感覚を失ってはいけないように思います。お腹がすけばご飯を食べるし、眠たければ寝る。そうした感覚を忘れずに生活するには、ちょっとくらい不便なほうがいいと思うんです。

 

例えば、今あるものでほしいものと同じことができないか、工夫をしてみる。そうやって、自分で考えて行ったことに対して答えが得られたり、場所ができあがったりしたときの満足感は、自分の幸せに大きく影響すると思います。小さな幸せの積み重ねが、自分にとっての心地よい暮らしや、「生きてる」と感じられる豊かな暮らしにつながるのではないでしょうか。

 

 

自分の暮らしを好きになることが、生きたいと思うことにつながる

家具は「家の具」と書きます。家の「道具」と考えることもできるけれど、「具材」とも言える。家自体がお弁当箱だとしたら、家具は家の中を彩る具材だと思います。お弁当箱の中身は、配置の仕方や色で見栄えが大きく変わります。それと同様に、家具もなにを選ぶかやどう置くか、色の使い方などで、その人の色が出てきます。

 

けれど、ikikukkaは家具でありながら、どちらかというと具材よりもお弁当箱寄りの家具だと思っています。家の中を彩るためのベースをつくる、建物に近い存在です。家がしっかりしていないと人が住めないのと一緒で、ものを収納するもののベースがしっかりしていないと、家の中を彩るのにもストレスになってしまう。ikikukkaは一歩引いた立ち位置で、そこに収まるものをすべて受け入れてくれるので、使う人次第で自由に使い方を決めることができます。

 

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家具は、人の生活を支えるものであるべきだと思います。自分の暮らしを好きになることが、生きたいと思うことにつながるはず。「生きてる」と感じられるように、自分の暮らしを好きになりたいと思っている人に届いたらうれしいです。

 

 

text:竹中 万季 (me and you)
photo:剣持 悠大, 樹音(homevideo company)